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インタビュー

ニチリウ永瀬式オープンイノベーションの課題と未来(後編)

ニチリウ永瀬のオープンイノベーションプログラム「Co Creative Project」の発足から1年。担当者はどんな思いで事業を推進してきたのか、プロジェクトの経緯と成果についてインタビューしました。

Member

ニチリウ永瀬ニチリウ永瀬 事業戦略本部 DX推進部 部長 山村 尚史
ニチリウ永瀬ニチリウ永瀬 経営企画部 部長 林 大輔
ニチリウ永瀬<オブザーバー>Zero-Ten 常務執行役員 栗原 聡

「Co Creative Project 」について

農業園芸商社であるニチリウ永瀬が推進している共創プログラム。西日本最大の農業園芸商社だからこそのネットワークを活かし、外部パートナーと共に、ビジネスアイデアの実現とサービス拡大を促進する取り組みを実施。「農業」「食」「暮らし」に関わるキーワードをもとに、未来の暮らしのあり方を考えます。2020年6月に本格始動。社外のビジネスパートナーを発掘し、共創による新規事業立ち上げを目指しています。


主語を「We」にする信念と覚悟、失敗の積み重ねが成功につながる

オープンイノベーションを経験して実感していることは?

《栗原》「新規事業をしない」という選択肢はない――。私自身そう考えていますし、山村さんと林さんもそうだと思います。既存事業だけで企業が生き延びることは、絶対に不可能です。既存事業の改善を含め、すべての会社が新しいことに前向きに取り組むべきでしょう。

《山村》おっしゃる通りです。

《林》それには、自分の時間軸で考えてはダメ。3年とか5年ではなく、もっと長い時間軸で考えていかなければいけない。

《栗原》いいご指摘ですね。それはすごく大事なことです。

《山村》大きな時間軸で考えるには、まずは保身したい気持ちを捨てる必要があります。立場や収入など、今の自分を保ちたい気持ちがバイアスになりますから。

《栗原》そうなんですよね。その点、失敗をゆるす文化であることは、ニチリウ永瀬さんの強みだと感じます。新規事業なんて、基本は失敗するものです。失敗しながら成功に近づいていくわけですから、小さい失敗を責められると成功はあり得ません。

《山村》失敗ではなく「ラーニング」と考える。

《林》そう。フェイルファスト、早く失敗することが大切。同じ過ちを繰り返すのは失敗だけど、学習して次に成功すればいい。

《山村》「新規事業をやらない選択肢はない」というのを、どこまで理解できるかどうか。一つひとつの経験を深める「深化」と、新しい価値観を発見する「探索」。企業としても個人としても、そのどちらも大切です。

《林》新しいことに挑戦する時って、やっぱり「信念」と「覚悟」だと思うんです。「責任感」とは少し違う意味で。

《山村》たしかにそうだね。その人に全面的に任せられるかどうか、だよね。相手の会社の事業内容や資産はさておき、最後はやはりその人と一緒に物事に取り組みたいかどうか、です。そう思わせる、その人の「厚み」というか、「生き様」みたいなものかな?

《山村》「覚悟」と言えば、私は当時上司だった疋田氏から「コミットしなさい」と言われたことが大きかったですね。それ以来、自分の中で、ニチリウ永瀬に徹底的にコミットすることに決めました。辞めるなんて言語道断。何があってもやり通す。そう覚悟してから、私の中の主語が「I」から「We」に変わったんです。そうして仕事をしていくと、相手の「覚悟」もわかるようになりました。

《林》会社や組織はいろんな要素が絡んでくるから絶対ではないけど、人は信じることができる。やっぱり仕事は「人」ですよね。

社会的意義の高い事業が良いスパイラルを生む

進行中のプロジェクトについて教えてください。

《山村》私たちのたどりついたひとつのテーマは「グリーン」です。今年1月には「welzo(ウェルゾ)」というブランドを立ち上げました。「種を植え、グリーンで尖ったものが成長する土壌を育てたい」という思いが込められています。また、緑を増やすプロジェクトとして、デバイスを用いて観葉植物を切り口に自宅の環境をさらに快適にするアプリを開発中です。データをきっかけに、植物を観察するきっかけを作り、植物をもっと愛してもらえる存在にしたいと考えています。

《林》オープンイノベーションのセッションがきっかけで生まれたプロジェクトとしては、認知症に関する商品があります。「モノが無くならないガーデニングトートバッグ」と「結ばなくていいガーデニングエプロン」を開発し、今年の6月に発表しました。これは福岡市が推進する「福岡オレンジパートナーズ」という産学官民プロジェクトの一環でもあります。背景には、商社として高齢化のマーケットに向きあい、適したサービスを提供したいという思いがあります。

《山村》また、地方の空き家を活用することで、農業をアップデートする事業も実現に向けて準備を進めています。

《林》ガーデニングバッグとエプロンの開発については、園芸を楽しんでくれる人が一人でも増えるのであれば、結果はどうであれやってよかったと言っていいと思います。自分たちが一歩動いたことで、他の企業も賛同してもらえたらうれしく思います。

新商品開発 参照サイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000072201.html

《山村》社会的意義が高い事業を手掛けることができたら、いいスパイラルに入れると体感できたのも収穫でした。シナジー生まれた状態だと、手伝ってくださるパートナーのパワーが全然違うんです。自分たちだけでは計り知れない大きな流れに乗れることを、今まさに体感しています。

《栗原》園芸と認知症の親和性に気づいたのは、医療法人すずらん会たろうクリニックの内田院長との出会いも大きかった。「認知症」というキーワードを拾い、「園芸」とつなげる力も重要ですよね。

《山村》栗原さんが次のステップへ進めてくれる力も、私たちがすぐに「会います」と言える力も大事。つまり、「Co Creative Project」の成功は栗原さんのおかげということですね(笑)

《栗原》いやいや、そんなことはないですよ(苦笑)。山村さんと林さん、金尾社長、そしてニチリウ永瀬さんの視座の高さだと思います。

正解はひとつとは限らない課題を分解して解決しよう

現在抱えている課題は?

《林》課題と言えば、昨日のセッションがヒントになりました。「この課題をなくそう」と思っても、そもそもひとつの「正解」を見つけるのは難しいものです。そうではなく、課題を分解して一つひとつ分解していくことが大事。自分たちの代で解決できなくても、次の世代につなげるために、今のうちに小さな課題を解決していく。それらを放っておくと、気づいた時には大手術しなければ直らない病になってしまいます。

《山村》自宅を例にとって考えてみても同じですよね。「靴を履きにくい、脱ぎにくい」と思うなら、それを改善する仕組みがあればいい。100均で小さい椅子を買って置いておく、とか単純なことでいいんです。小さなところから成功体験を積み上げていくことがポイントですよね。

《栗原》その通り。いきなり「生活を改善しよう、効率化しよう」というのは無理だけど、「キッチンにこれがあれば便利だね」だと、共感を得られて家族にも協力してもらえる。

《林》家族でも会社でも、それぞれの行動には指針や背景があって、それを他者から変えられたり否定されたりすると抵抗を感じるものです。例えば私が持っているこの名刺入れは、ただの使い慣らした名刺入れに見えるかもしれませんが、私が就職してからずっと使い続けている大切なものなんです。それを「捨てなさいよ」と言われても難しい。人によっていろんな事情があることを前提に、否定から入らないことは大切です。

《栗原》そうですね。

《林》一度、すべてを受け入れることからだと思います。「帰りにちょっとサウナ寄らない?」といちばん最初に誘われた時も、「用事があるので帰ります」と断っていれば、今の私はないわけで……(笑)

《山村》自分のバイアスに沿って動けばラク。だからルーティンに安心を求めたり、依存したりして「今まで通りでいい」と考えてしまいます。頭を使うと疲れる、面倒だというのが人間の本質です。情報が多い現代社会では、ひとつ選択するのも大変です。でも、自分に染み込んでいるバイアスを変えたり壊したりしないと、オープンマインドにはなれないんです。

《林》自分が正しいとまったく思ってないので、みんなの意見のいいところをまとめたいなと考えています。

《山村》「自分を正しいと思わない」はすごく大事です。林は、バイアスがあるけど力技で叩き壊して構築していけるタイプ。いずれにしても、「知らないことを知る」のは現実を認めるということ。これに気づけたのは強みになりました。そうでないと、井の中の蛙になってしまいます。

《林》現代の資本主義経済では、新しいことを始めるのにお金を稼ぐことを考えすぎてしまいます。仕事の結果としてお金があるのに、そこが先になってしまう。しかし、儲けが先にくる打算的なアイデアは大抵うまくいきません。数字を追い求めず、損得勘定がないほうが楽しいことが生まれますよね。

《山村》失敗を恐れず、チャレンジを続けること。これがオープンイノベーション成功のカギだと強く実感しています。

-了-

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